加速膨張 | 研究内容 | 名古屋大学 宇宙論研究室 (C研)

加速膨張

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Ia型超新星の観測によって宇宙の加速膨張を示した図 [Perlmutter et al.1999]
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)、バリオン音響振動(BAO)、Ia型超新星(SNe)の観測による宇宙論パラメーターの制限[Suzuki et al. 2012]

宇宙は高エネルギーのとても小さな火の玉の状態から膨張して現在の宇宙になったと考えられています。1929年のエドウィン・ハッブルたちの観測によって現在の宇宙が膨張していることが分かりました(最近では、ハッブルたちの発見よりも前にルメートルが宇宙の膨張率を計算していたことがわかっています)。さらに1990年代後半にIa型超新星を観測した結果から、宇宙膨張の速さがどんどん速くなっているということが分かっています。これを、宇宙の加速膨張と呼びます。

しかし一般相対性理論の枠組みにおいて、星や銀河などの物質だけが存在する宇宙では、加速膨張を説明することができません。物質同士は重力相互作用をする(お互いに引き合う性質を持っている)ので、物質だけで構成されている宇宙は物質どうしの重力相互作用でいずれは潰れてしまうからです。このため、宇宙の加速膨張を引き起こすような新たなエネルギー源が必要になります。このエネルギーのことをダークエネルギーと呼びます。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)などの観測よると、ダークエネルギーは現在の宇宙の全エネルギーの約70%をしめていると考えられていますが、その正体はまだ分かっていません。

最も単純なダーエネルギーの候補は、アインシュタインによって導入された宇宙項です。宇宙項は真空のエネルギーに対応すると考えられています。物質の存在しない真空に一定の密度をもつエネルギーが蓄えられていると、それが反重力の働きをして宇宙を膨張させるというものです。しかし、素粒子論に基づいて真空のエネルギー密度を計算すると、その値が観測されている値よりも120桁以上大きな値を示してしまいます。この問題は宇宙定数問題として現在に至るまで解決されていません。

宇宙の加速膨張を説明するためのアプローチとして、ダークエネルギーを導入せずに一般相対性理論を拡張した修正重力理論も考えられています。これは、太陽系規模や銀河規模まで適用可能な一般相対性理論に基づく重力の法則を、これよりもはるかに大きいスケールで変更することで、加速膨張を説明しようとする試みです。

宇宙の始まりや進化を説明するために現在でも様々な理論モデルが考えられていますが、それらを検証するためには観測が不可欠です。宇宙の加速膨張を解明する手がかりとなる研究としては、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測、バリオン音響振動(BAO)の観測、Ia型超新星の観測などがあります。私たちの宇宙論研究室では、このような観測に基づいて理論を検証し、宇宙の始まりや進化の描像を探っています。

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