星形成シナリオ

Inutsuka et al. (2015)は遅い分子雲形成過程に基づき, 銀河系円盤部における統一的な星形成シナリオを提案した. そのシナリオでは, 分子雲の質量関数・星形成の加速・星形成率・シュミット則 の起源が説明されている.

弱電離した星間媒質中での輻射加熱・冷却・熱伝導を含む非理想磁気流体力学的研究により, 星間雲の形成機構が解き明かされて来た. まず,熱的不安定性を伴う相転移現象により低温の中性水素ガス雲が生成される. これらが多数回の衝撃波により圧縮されることにより,分子雲が形成される. また,できた分子雲が衝撃波によって再度圧縮される場合に,フィラメント状の分子雲が生成される. Inutsuka et al. (2015)では,この知見に基づいた星形成シナリオにより, 銀河系円盤部における星形成活動に関する多数の観測事実を説明することができることを報告した. 膨張する電離水素領域や充分冷却した超新星残骸により圧縮された球面 (以下,バブルと呼ぶ) には乱流状態の低温の中性水素分子雲が形成される. その雲が多数回圧縮されて分子雲が形成されるため,分子雲は球面上の一部のみに存在する. また,分子雲の形成には数千万年かかるため,百万年程度しか持続しない電離水素や 超新星残骸のほとんどはその痕跡を同定することが困難になる. 分子雲では十分大きな線密度のフィラメントが形成されることで星形成は始まり, 数千年程度の時間スケールで加速する. バブルとバブルの衝突面に相当する特別な領域においては分子雲同士の衝突が可能であり, ガスの効果的な圧縮に伴い,激しい星形成が誘発される. 20~30 太陽質量の星が生まれると,電離・解離光子を含む紫外線により 3x104太陽質量程度の分子ガスが百度弱に暖められ, COを含まない「見えない」分子雲となり星形成活動は止まる. その結果,星形成率は数%程度になる. 分子雲の(全)散逸時間は 1Gyr=109 年のオーダーとなり, いわゆるSchmidt-Kennicutt 則の起源を与える. この過程を記述する方程式の定常解として分子雲の質量関数が決まる.

Ref.
"The Formation and Destruction of Molecular Clouds and Galactic Star Formation: An Origin for The Cloud Mass Function and Star Formation Efficiency"
Shu-ichiro Inutsuka, Tsuyoshi Inoue, Kazunari Iwasaki, & Takashi Hosokawa (2015)
Astronomy and Astrophysics, accepted (arXiv:1505.04696)

 
  銀河円盤部における分子雲及び星形成シナリオ (犬塚・井上・岩崎・細川 2015 A&Ap)  



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