蒸発する巨大ガス惑星

 

私たちは、太陽系外惑星の形成や進化を理論的に研究しています。その成果のひとつとして、「太陽系外の巨大ガス惑星がガスの宇宙空間への流出で蒸発して消えてしまう」という現象が起きていることを明らかにしました。

 

研究の背景:蒸発する灼熱巨大ガス惑星の発見

近年の急速な観測機器・技術の発展によって、これまでに1000個を超す太陽系外惑星が発見されています。その中には、木星のような巨大ガス惑星でありながら、恒星のごく近傍に位置するために、表面温度が1000℃にも達する、Hot-Jupiter (灼熱巨大ガス惑星)と呼ばれる惑星が数多く存在しています。ハッブル宇宙望遠鏡での観測によって、この灼熱巨大ガス惑星のガスが宇宙空間に流出している兆候が捉えられました(1)。この質量損失現象は惑星の進化にどのような影響を及ぼしてきたのでしょうか?

 

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1:ガスの流出する灼熱巨大ガス惑星HD209458bのイメージ図 (copyright: NASA)

 

研究の手法:惑星の構造と進化の理論計算

質量損失現象を引き起こすメカニズムのひとつとして、恒星からのX線や極端紫外線放射による惑星大気の加熱があります。この大気加熱によってどの程度の質量損失が起こるかは、質量や半径などの惑星の性質に依存します。私たちは、惑星の構造計算を行うことで、惑星半径の進化を調べつつ、恒星放射に晒されることによるガスの流出を理論計算しました。

 

研究の成果:灼熱巨大ガス惑星の一部は蒸発して消えてしまう

その結果わかったことは、灼熱巨大ガス惑星の一部はガスの宇宙空間への流出による質量損失によって、完全に蒸発して消えてしまうということです。特に、恒星に近く、質量の小さい灼熱巨大惑星が選択的に蒸発します。その結果、系外惑星の分布図上に、惑星が存在しない欠損領域が生まれます。私たちの理論計算によって得られた欠損領域は、実際に観測された系外惑星の分布とよく一致しています(2)。これは、恒星近傍の惑星分布が、形成直後の分布から質量損失によって変化した可能性を示唆しています。

 

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2:太陽系外惑星の分布と理論計算で得られた質量損失による欠損領域の比較

 

研究の今後:惑星の形成と進化の統一的な研究へ

観測される太陽系内・系外の惑星の姿は、様々な惑星形成過程・進化を経た最終状態です。質量損失のような、惑星進化の過程をひとつひとつ調べることは、観測される惑星の姿と惑星形成理論を橋渡しする重要な作業です。最終的には、惑星の形成と進化の統一的な理解を得ることが私たちの目標です。

 

文責 名古屋大学大学院理学研究科 研究員 黒川宏之