星間媒質の物理:輻射加熱・冷却,熱的不安定性と相転移,乱流, 非理想磁気流体力学,星間雲の形成

 星は分子雲の中で生まれるため、分子雲の形成過程を理解することは、星形成過程の初期条件を決定するために不可欠である. しかし、高密度の分子雲の中での磁場の強さが精度良く測れないという致命的な観測的困難のため、星形成初期段階での磁場の役割については現在でも論争が絶えない. そのため、分子雲の形成過程を調べることで、星形成過程の初期条件を理論的に推定するという研究が重要となる. また、銀河内での分子雲形成過程を理解することは、星形成活動に起因する銀河の進化の研究の為にも必要であるが、以前はほとんど手がつけられていないテーマであった. 我々はこの問題に対する本格的な理論研究を世界に先駆けて行っている. 化学反応を伴いガスの相変化を含む詳細な物理過程を記述する我々の現実的モデルは現在「多相星間媒質のダイナミックス」として世界的に研究されるテーマになってきている.
 一般的に銀河内の星間ガスは, 低密度では輻射冷却効率が低く中・高温(>104K) の温かいガス(warm gas)となるが, 高密度では輻射冷却が効いて低温の冷たいガス(cold gas)となる. その結果,現実的な星間ガスは密度が大きく異なる多相が同じ圧力になり 隣接して存在するという多相星間媒質(multi-phase interstellar medium) となる. このような多相星間媒質である現実の星間ガスは 普遍的に乱流状態として観測されている. また,高密度ガス雲である中性水素ガス雲(HI雲)・分子雲の生成 とその中での星形成,及びその後の分子雲の散逸過程を理解する上では, (星間)乱流の生成・維持・消滅を理解することが不可欠である. 実際,多相星間媒質には自ら乱流を生成・維持する機構があることを 我々は世界に先駆けて見出している(Koyama & Inutsuka 2000). 大質量星からの星風や電離領域の膨張,超新星爆発などにより, 絶えず圧縮を繰り返している星間媒質は低密度相から高密度相への 相転移を繰り返しているが,この相転移は熱不安定性に駆動されて 微小な空間スケールまで乱流状態になるのである(下図参照). この乱流は単相(ほぼbarotropic)の流体乱流とは異なり, 衝撃波を伴う急速な散逸が起こらないことが特徴的である. この乱流維持のメカニズムの理解の一端として, 我々は「蒸発」に相当する相転移面がそもそも流体力学的に 不安定であることを見出した(Inoue, Inutsuka, & Koyama 2006). 現在は,この相転移面の不安定性に対する磁場の効果を 理解するためにいろいろな角度から解析を進めている.



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