惑星形成についての研究
I. 古典的惑星形成モデル
現在の惑星形成モデルは以下のように考えられている。
1. 星形成の副産物として、星の周りに1%程度の質量の原始惑星系円盤が生まれる。
2. ガスに比べさらに1%程度の総質量の固体微粒子(0.1ミクロン程度の大きさ)が集まり、1kmから100km程度の大きさの微惑星を作る。
3. 微惑星同士が重力で引き合い、衝突・合体をくりかえし、1000km程度の大きさの原始惑星を作る。
4. 原始惑星の大きさが地球の10倍以上の質量に達すると重力が大きくなり、周りのガスを集め、木星・土星の様な巨大ガス惑星になる。
5. 円盤ガスがはれて、惑星系が形成される。
II. 原始惑星系円盤や系外惑星の観測により見えてきた古典的モデルのほつれ
原始惑星系円盤中の固体微粒子の温度は中心星の温度よりもずっと低い。そのため、星と周りの円盤が分解できず点源として見えてしまっても、低温の固体微粒子の熱放射が中心星の黒体放射と異なるため、赤外線の超過により観測される。このような間接的な観測により原始惑星系円盤は進化過程で中心星に近い領域に穴があいた円盤などが示唆されてきた。これまで古典的惑星形成モデルでは滑らかに広がった円盤を考えていたが、円盤の進化過程で円盤の動径方向の分布はそうではない可能性がある。
さらに、高分解能を持つ望遠鏡(ALMA)による観測で原始惑星系円盤の詳細な構造が直接的に分かってきている。その結果、円盤の動径方向の穴だけでなく方位角方向にもムラがあることが分かってきた(下図, Fukagawa et
al. 2013, Fig. 1)。このような局所的に溜まったガスは惑星形成に大きな影響を及ぼす。
また、太陽系以外の惑星が既に1000個以上発見されており、地球質量から10倍の木星質量程度まで存在する(下図)。太陽に一番近い惑星は水星で太陽から0.4AU程度の距離で地球の1/10程度の質量だが、系外惑星では中心星にもっと近く質量が木星のように大きい惑星がたくさん発見されている。また、直接撮像により、地球の100倍近くの軌道半径を持つ、巨大ガス惑星も発見されている。このような惑星の形成は古典的な惑星形成モデルでは困難である。
このように惑星形成の近年の原始惑星系円盤や系外惑星の観測から古典的惑星形成モデルは少なからず改良を要請されている。
惑星の中心星からの距離(軌道長半径、1AUは地球と太陽の距離)と惑星の
質量の関係(データはexoplanet.euより)。黒点が掩蔽観測により発見された
惑星で、白丸はドップラーシフト法による。
III. 新たな惑星形成モデルの構築(Ta研での研究課題)
これまでの理論モデルと観測の結果を紹介した。理論モデルで簡単の為に仮定したことが必ずしも正しくないことが分かってきた。また、惑星形成モデルは形成された惑星の進化と合わせて、検証していくべき研究課題である。
Ta研では、惑星形成のメカニズムを解明するために以下のように様々な取り組みをしている。
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原始惑星系円盤の中で重力不安定により早期に惑星が形成され、その状況下での惑星形成(Ogihara et al. 2013, 2014、資料)。
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惑星形成過程では、天体の衝突過程が必要である。標準モデルでは、簡単のため衝突により完全合体を仮定したが、現実的な破壊を考える(Kobayashi et al. 2010,2011,2013,2016、資料)。
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天体の衝突過程のシミュレーションによる解明(Sugiura, Kobayashi, & Inutuska 2018
)。
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原始惑星系円盤では円盤風が効果的でその結果、円盤の空間分布が変化する。それが惑星の分布にも影響を及ぼす(Suzuki et al. 2010, Ogihara et al. 2015)。
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太陽系で、地球型惑星(岩石惑星)を作った微惑星と木星型惑星(巨大ガス惑星)を形成した微惑星の違いを解明する研究(Kobayashi
& Dauphas 2013, ニュース記事)。
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ダストの衝突による成長過程の解明する研究(Wada
et al. 2013)とダストの衝突•合体による微惑星形成の研究(Okuzumi
et al. 2012、資料)。
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重力不安定による微惑星形成の再考察
(
資料
)。
· ガス・ダスト摩擦に起因する永年重力不安定性(SGI)によるリング形成理論(Takahashi & Inutsuka 2014; Tominaga et al. 2017)。 この理論の予言通り、2014年11月ALMA望遠鏡により多数のリング構造が発見された。