デブリ円盤とカイパーベルト天体
惑星形成が終わった惑星系?!

 惑星系は星形成の副産物として形成された星周円盤の中で形成されたと考えられている。この円盤は原始惑星系円盤と呼ばれ、ほとんどの成分がガスでその中で少量の固体が集まって作られるのが惑星である。現在の太陽系ではこのような大量のガス円盤は存在しておらず、固体微粒子も原始惑星系円盤に比べると少量である。太陽系以外でも、このようなガスがほとんどなく、非常に少ない固体微粒子が観測されており、デブリ円盤と呼ばれ様々な波長で観測されている(デブリ円盤ギャラリー)。この円盤は太陽系との関係が議論され、特に太陽系の外縁にあるカイパーベルト天体と比較される。以下で、両者の関係とその重要性を解説する。
 太陽から40-50AU(地球軌道は1AU)程度離れた帯状領域に多数の小天体が発見されており、カイパーベルトと呼ばれている。カイパーベルト天体は、直径2300km程度の冥王星やそれよりも小さな天体で構成されており、現在の観測では100km程度の天体まで見つかっている。また、天体の総質量は0.01-0.1地球質量程度と見積もられている。そのため、惑星形成論で考えられているような、衝突・合体のくりかえしにより惑星を作ろうとしても、カイパーベルト天体の総質量が小さいため大きな惑星はもはや作ることはできない。
カイパーベルト天体の軌道分布
図1、カイパーベルト天体の軌道分布( 軌道データ )。 ただし、海王星にはねとばされた天体(Scattered Objects)は除いた。
 他方、カイパーベルトで惑星形成がもはや起きていないことが天体の軌道から分かる。カイパーベルト天体は他惑星たちとは違い、歪んだ楕円軌道で軌道面も大きく傾いている(図1参照)。天体間の衝突速度は離心率や傾斜角で決まり、カイパーベルト天体の衝突速度は数百m/sから数km/sと非常に大きい。そのため、天体間の衝突は破壊をもたらし、合体・成長できない。現在観測不可能な100km程度より小さい天体は、衝突・破壊の結果生成されるため当然存在すると考えられている。実際、ボイジャー1号、2号などの探査機により、ミクロンサイズのダストがカイパーベルト付近で見つけられている。
 太陽系以外の惑星系でも、このような天体の衝突・破壊現象が起きていることを示唆しているのがデブリ円盤である。デブリ円盤は1千万年程度以上の年齢を持つ星のまわりで観測されている淡い円盤である。惑星系をこれから作る原始惑星系円盤ではガスとダストが存在するが、デブリ円盤ではガスがほとんどない。ガスに守られていないため、デブリ円盤中で主に観測されている1-100ミクロンサイズの小さなダストは中心星からの輻射圧を受けて短時間で消失してしまう。そのため、観測されているデブリ円盤では常にダストが供給されていると考えられている。
 ダストの常時生成は、輻射圧の効果が無視できる程に大きな天体が存在し、これらが高速衝突を起こし壊れ、その破片同士がさらに衝突をくりかえし破壊により小さくなっていくことにより起こる。衝突・破壊を起こしている1番大きな天体のサイズが大きくなる程、円盤を維持できる時間が長くなる。円盤は中心星の年齢程度の時間は維持されているので、デブリ円盤には1kmかそれよりも大きな天体が存在していると考えられている。また、これらのダスト源である天体はカイパーベルトのように帯状に分布していると観測結果を基に解釈されている。
 カイパーベルトでは100km以上の大きな天体のみが観測され、デブリ円盤では1-100ミクロン程度の大きさのダストが観測されているので、簡単には比較できない。それでも、上述のような推論から、小天体が中心星の周りに帯状に分布していることやこの小天体の衝突・破壊が起きていること等、カイパーベルトとデブリ円盤は共通点がある。そして、カイパーベルトやデブリ円盤で衝突・破壊を起こしダスト源になる天体は、惑星形成の過程で形成される微惑星の生き残りだと考えられており、カイパーベルトやデブリ円盤の理解は惑星形成過程の解明につながって行くと考えられている。
カイパーベルト起源
図2、カイパーベルトやデブリ円盤形成起原のモデル。 (a)内側の惑星(カイパーベトにはこの惑星の移動が必要)の影響、 (b)他の星の近接遭遇の影響、 (c)惑星の帯状領域内での形成の影響
 カイパーベルトの帯状に分布し、天体の軌道が乱れていることを、現在の太陽系に配置されている惑星からの重力で説明することは難しい。そのため、過去の太陽系で何かイベントが起こった結果だと考えられている。例えば、海王星の外側への移動や過去の他の恒星の近接遭遇等によりカイパーベルトの軌道分布は説明できる(図2参照)。一方、デブリ円盤でも1km大かそれよりも大きな天体が存在し、これらの高速衝突による破壊によりダストの供給源になっている。このような高速衝突を起こさせる程に軌道を乱すためには、カイパーベルトの場合と同じように海王星のようなデブリ円盤の外にある惑星の影響や他の恒星との遭遇による影響も有効である。さらに、惑星が形成された結果、周りの微惑星の軌道を乱し、微惑星の衝突・破壊によるデブリ円盤形成の可能性も残されている(図2参照)。また、デブリ円盤はカイパーベルトよりも中心星に近いものも多く発見されている。太陽系の小惑星帯のような微惑星帯や、太陽系で月が形成されたような巨大衝突が起きた結果生成される大量の破片等が、中心星に近いデブリ円盤の形成メカニズムと考えられている。
現在の観測ではカイパーベルトで予測されるダスト量に比べ非常に多量なダスト量を持つデブリ円盤しか観測することはできない。これらの観測から、惑星形成は終わったが小天体の高速衝突による衝突破片が生成されている太陽系のような惑星系と惑星形成中の破片生成を区別することは難しい。将来の大型望遠鏡や宇宙望遠鏡による観測で太陽系カイパーベルトにより作られるようなデブリ円盤が見つけられるようになると、デブリ円盤の進化と惑星系の進化の関係性が解明されていくだろう。