TA研究室の研究紹介

宇宙における天体形成過程を解明することで、物理学を宇宙の進化の中で系統化することを目指す。当面は銀河・星・惑星の形成過程を解析的及び数値シミュレーションの手法で理論的に調べる。その際に重要となる物理的素過程の研究を重視し、得られた知見をその他の分野の物理学にも応用する。

銀河内星間媒質の物理

星は分子雲の中で生まれるため、分子雲の形成過程を理解することは、星形成過程の初期条件を決定 するために不可欠である。しかし、高密度の分子雲の中での磁場の強さが精度良く測れないという 致命的な観測的困難のため、星形成初期段階での磁場の役割については現在でも論争が絶えない。 そのため、分子雲の形成過程を調べることで、星形成過程の初期条件を理論的に推定するという研究 が重要となる。また、銀河内での分子雲形成過程を理解することは、星形成活動に起因する銀河の進化 の研究の為にも必要であるが、以前はほとんど手がつけられていないテーマであった。我々はこの問題 に対する本格的な理論研究を世界に先駆けて行っている。化学反応を伴いガスの相変化を含む詳細な 物理過程を記述する我々の現実的モデルは現在「多相星間媒質のダイナミックス」として世界的に研究 されるテーマになってきている。
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銀河内星間空間に存在する温度1万度程度の低密度ガス(Warm Gas、赤色の部分)中を伝搬する 衝撃波により、温度100度程度の中性原子ガス(青色の部分)を含む層が形成され乱流状態に なることを示した大規模数値シミュレーションの結果。

星形成過程の研究

星形成過程の研究においては、「どのようにして角運動量を捨てて星が形成されるか?」と「形成される星はいつどのようにして磁束を失うか?」の二つの問題を解明しなければならない。これらの問題に我々は正面から取り組んでおり、その二つの問題の解決は密接に結びついていることがわかってきた。

分子雲の中の高密度の部分(分子雲コア)が自己重力的に収縮して原始星が誕生する過程を解明した非理想磁気流体力学的数値シミュレーションの結果。 まず、10AU程度の大きさの第一コアが形成され、その中で再度の動的収縮が始まり、最終的には太陽半径程度の大きさの第2コア(原始星)が形成される。 それぞれの天体の形成に伴い、両極(回転軸)方向に高速ジェット状ガスが流れ出し、角運動量を放出する。 この計算では長さスケールで8桁以上のダイナミックレンジをカバーしており、巨大電波干渉計などを用 いた最先端の観測による理論の実証が待たれている。

惑星形成過程の研究

1995年に始まる系外惑星の発見以来、惑星形成過程に関する研究は急速に発展してきた。数多くの研究者の取 り組みに反して、惑星形成理論には二つの大きな問題が立ちはだかっている。一つは原始惑星の材料物質である 微惑星の形成が困難であることで、もう一つは、形成された原始惑星も原始惑星系円盤中のガスとの自己重力的 相互作用のため,中心星に向かって落ちてしまうという惑星落下問題である。いずれの問題も、流体力学的取扱 が必要なガス成分と,粒子的取扱が必要な固体(塵)成分の力学や輸送方程式の両方を解く必要がある。 本研究室では、適宜数値シミュレーションの手法を用いて、これらの問題に正面から取り組んでいる。

原始惑星系円盤のガス成分のシミュレーション。色は密度の等値面を示している。円盤は磁気流体力学的 な不安定性により磁気乱流状態となっている。ここで調べたガスの運動が、次の図で示すような固体成分 の合体成長に本質的な役割を果たすことが分かってきている。

原始惑星系円盤の中で重元素を多く含む塵粒子の塊が合体成長して微惑星(原始惑星の材料)となる過程の 時間の単位はケプラー回転周期である。

高エネルギー天文学

近年のX線やγ線天文学の発展により、ブラックホールや中性子星などのコンパクト天体に関する詳細な 天体物理学的モデル化への興味が高まっている。我々が天体形成過程の研究において駆使した手法は、 相対論的な運動学に拡張することにより、高エネルギー天体物理にも直接応用可能である。現在、我々 は超新星爆発に伴う極衝撃波による強磁場と乱流の生成過程、粒子加速メカニズム、無衝突ガスにおける 磁気回転不安定性による磁場生成メカニズム、相対論的流体における散逸の理論などについて研究を進め ている。
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超新星爆発による極めて強い衝撃波が多相星間媒質中を伝搬する際に乱流を生成し、その結果、 ミリ・ガウス程度の強磁場をパーセク程度の長さスケールで作り出すことを示す数値シミュレーション。 左の図で青色部分が高密度を表す。右の図では赤色部分が強磁場を表す。

大学院生について

理論宇宙物理研究室での研究においては、必要であれば物理学のあらゆる分野の理論を駆使します。従って、物理学やその他の科学の幅広い分野への興味を持って研究できる野心的な学生を期待しています。

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