銀河系(天の川銀河)の形成と進化を理解する上で,星形成史(Star Formation History: SFH)の解明は極めて重要な課題である. 個々の星の年齢や化学組成(金属量)の分布を詳細に解析することで,銀河系が過去どのようなペースで星を生み出してきたかを推定することが可能となる.
近年の観測的研究(e.g., Haywood 2014; Haywood et al. 2016)により,銀河系円盤部における星形成率は,過去約100億年(10 Gyr)にわたり,おおよそ一定のペース(SFR ~ 1 - 3 太陽質量 / 年)で維持されてきたことが明らかになっている. これは,銀河系が非常に安定した進化を経てきたことを示唆している.
しかし,この「定常的な星形成」を一見すると,単純な理論的矛盾に直面する. 現在,銀河系円盤内に存在する星の材料(原子・分子ガス)の総質量は,約 10^9 太陽質量 程度と見積もられている. もし外部からのガス供給が一切なく,現在のペース(~ 1 太陽質量 / 年)でガスを消費し続けたと仮定すると,円盤内のガスはわずか10億年(1 Gyr)程度で枯渇してしまい,星形成は停止してしまうはずである.
この矛盾を解決するためには,円盤内部での物質循環だけでなく,円盤外部から新たにガスを流入させる物理機構(Gas Accretion)が不可欠となる. すなわち,星形成活動を持続させるためには,消費されるガスを補填するだけの「燃料」を外部から継続的に獲得し続けなければならない. 星形成という局所的なプロセス(「木」)だけでなく,銀河規模でのガスの流入・流出(Outflow)といった壮大なバリオンサイクル(「森」)を定量的に評価することが,銀河系の進化を持続させてきた駆動力を理解する鍵となる. 本研究グループでは,銀河風によるフィードバックや高速度雲によるガス供給といった多角的な視点から,この銀河生態系の全貌解明を目指している.