暗黒時代と宇宙再電離期 | 研究内容 | 名古屋大学 宇宙論研究室 (C研)

暗黒時代と宇宙再電離期

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輻射輸送シミュレーションにおける宇宙再電離期
#以下のリンクをクリックすると時間発展する様子の動画ファイルをダウンロードできます(credit:長谷川賢二)。 動画1 動画2
全水素における中性水素割合の赤方偏移変化[Fan et al. 2006]

宇宙論における最も大きな課題は、現在の宇宙がいかにして観測でみられるような複雑な構造を持つに至ったのか、ということです。この構造形成に関する理論モデルは多数ありますが、ΛCDMモデルが観測結果と整合的であるため正しいと思われています。この理論モデルによると、CMB (Cosmic Microwave Background radiation: 宇宙マイクロ波背景放射)の観測から明らかになった宇宙初期の小さなゆらぎが重力的に成長して現在の構造に富んだ宇宙に発展してきました。

このように、ΛCDMモデルは宇宙初期の観測(CMBの観測など)と現在の宇宙の観測の双方において成功を収めています。しかし、我々はまだ、宇宙初期と現在の間にあった"暗黒時代"を観測できていません。この暗黒時代とは、宇宙の始まり以来、初めて光がまっすぐ飛ぶようになる事象である"宇宙の晴れ上がり"から宇宙で最初の光源天体が形成されるまでの時代を指す用語です。この暗黒時代における物理過程は非常に単純です。晴れ上がりのあとは以下に記す幾つかの物理過程のみが暗黒時代の宇宙の進化に寄与します: 宇宙の膨張、電子と陽子の再結合、CMB光子と残存電子の相互作用、そして重力相互作用です。特に、物質の密度ゆらぎは、暗黒時代のほとんどを通して線形です。したがって、暗黒時代の密度ゆらぎの観測によって、宇宙論パラメータに対してCMB観測よりも強い制限をかけることができます。

暗黒時代の終わりに形成される宇宙で最初の光源天体は"初代星"であると考えられています。初代星とは宇宙で最初の恒星の一群を指し、一般的に太陽質量の100倍から1000倍の大質量を持つと考えられています。その初代星から放射される光によって、晴れ上がり以降ほぼ中性化した宇宙が再び電離され始めます。これを"宇宙再電離"と呼び、初代星以外にも銀河やクェーサーといった光源天体から放射される光も電離に寄与したと考えられています。

暗黒時代と宇宙再電離期は宇宙論の研究者にとって、非常に興味深い時代です。しかしながら、未だに重要な課題は山積しています。初代星はどのような物理過程によって形成され、その結果としてどのような性質を持つのか?初代星は現在の宇宙に観測可能な痕跡を残しているのか?初代星内部で生成される重元素が銀河やIGM(Intergalactic Medium: 銀河間物質)にどのように供給されたのか?その銀河やIGMの性質が後の構造形成にどのように影響を与えるのか?大質量ブラックホールはいつどのように形成されたのか、また銀河形成のシナリオの中でどのような役割を果たしたのか?今後の観測や理論研究によって暗黒時代と宇宙再電離期の理解が深まり、これらの疑問の答えを得られるかもしれません。2020年に観測が始まる予定であるSKA (Square Kilometre Array)の次世代電波干渉計で、暗黒時代と初代星近傍が初めて観測されると期待されています。また、理論研究においては、輻射輸送シミュレーションによって宇宙再電離の数値計算が行われています。これらの理論研究の進展や次世代観測は宇宙の歴史のさらなる理解に貢献するでしょう。

数値計算の結果に基づいた、宇宙再電離の様子の動画ファイルが以下のリンクからダウンロードできます。
動画1(ある固定した点から見たとき)
動画2(計算領域のまわりを回転しながら見たとき)
ダウンロードは自由ですが、使用される場合は「(C)長谷川賢二」などと明記してください。

Posterはこちら(CMBと同じ)

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